ホテル情報
Speicher7
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フランクフルトから南方に向かうICEに乗って30分程、マンハイム中央駅が近づいてくると、窓の向こうにはライン川を背景に、ビッグスケールのグラフィティアートが現れ、目が釘付けになる。約1000本のスプレーを使って、700m²にも及ぶコンクリート壁面に、ドイツでも最大級のミューラル(壁画)がクリエートされた。パズルのように正方形に分解された謎めいた女性の顔が描かれる。それは「マンハイムの四角形」と呼ばれ、格子状に直交する道路で区切られるマンハイム独特の歴史的街構造を引用し、マンハイムの活発なカルチャーシーンを象徴する。独自のフォトリアリスティックなスタイルで、国際的に活躍するアンドレアス・フォン・フシャノフスキ(別名「Case」)の作品、これがライン河川港の旧穀倉を改修した建物に入るデザインホテル「シュパイヒャー7」(第7倉庫)の正面ファサードなのである。20室のみのプチホテルだが、この個性的なホテルは、開業した2013年にヨーロピアン・ホテルデザイン賞で、新築部門のブルガリホテル(ロンドン)と肩を並べて、改築部門のアーキテクチュア・オブ・ザ・イヤー賞に輝いたのだった。ドイツ大統領をはじめ、ドイツのスター達もマンハイム滞在には、ここを利用している。
このプロジェクトは、ライン川の沿岸にある空き家状態の旧インダストリー建築を、再活性化させる目的の事業でもあった。港にはライン川観光クルーズ船も停泊する。今では信じられないかもしれないが、戦争勃発時のマンハイム市民の食糧確保のためにと、第2次大戦後、1950年代に緊急時用穀倉が建設され、1980年代まで実際にサイロいっぱいに穀物が保管されていたのだった。その後20年以上も用途不明の空き家状態だったのを、地元の建築家アンドレアス・シュムッカーが、いわば眠れるライン河岸の倉庫美女にキスして目覚めさせたようなもの。建築家は共同出資者と、計1000万ユーロをかけてプロジェクトを実現する。
ファサードを覆うのは、耐候性鋼材のコールテンスチール(フィンランド製)。波状で、時の経過とともに表面にきめ細かい錆を形成するが、必要以上の腐食が進まない優れた建材とのことだ。倉庫建築のインダストリアルな性格を表現すべきファサードは、みごとに美しく錆びを帯び、倉庫はマンハイムの港のランドマークになった。8階建ての倉庫は76mもの長い建物で、その約半分がコンクリートのサイロ空間だが、採算が合わないのでノータッチのまま残した。そのサイロ部分の窓のない閉じられた巨大なファサード面を利用し、ライン川側南西ファサード(グラフィティアートの反対側)には、エアコンに使う太陽エネルギーの光起電力パネルが設置された。プラスエネルギーのエコロジカルな建築で、つい先日もEU視察団が訪問したそうだ。
倉庫の最上階にシュムッカー & パートナーが設計事務所を構え、1階中央部に、夏はテラス席が大人気のライン川に面したレストラン、ホテルは建物北の部分を占め、1階にカフェバーとレセプション、2階 & 3階が客室。上階に法律事務所やIT企業が入居する。建物内は改修後もコンクリートの壁や床がオリジナルのままだが、港の倉庫のオーセンティックな魅力を引き出すよう、オリジナルのインダストリー建築の性格を消去せず、うまく活かすことに成功している。
ホテルは、フローリストというユニークな経歴の起業家ユルゲン・テカートと、ビジネスパートナーのトルステン・クラフトが共同経営している。建築家がプロジェクトのプレゼンテーション会場用に友人のテカートが花を注文し、それを届けにきたテカートが倉庫建築に一目惚れして、この空間であればホテルを是非やってみたいとなった。この頃は倉庫内にまだ狐が宿っていたという。テカートはまず2ヶ月間インドに滞在し、新たに決心を固めた後で、既にパートナーのクラフトとホテル用のファニチャー探しを始める。まだ投資家も揃っていなかったのに、モロッコでみつけたカーペットやファニチャーが、コンテナでマンハイムに運ばれた。そんな具合でインテリアにも隅々まで、ホテルに賭けた人間の情熱が伝わる。「花の多彩な色、花の多彩なフォルム、何でも自分がすることは、全て花の美しさがインスピレーションの本源にある。」というテカート。花が私達の感性を刺激するように、ホテルもゲストの感性を心地よく刺激する。テカート氏がインド文化に惹かれ、長年ヨガを実践していたので、ホテルにもヨガの部屋があり、ビジネス客が滞在中にヨガでリラックスしていく例が多い。
インテリアはハンブルクにショールームとオフィスを持ち、コンバースの欧州本社など、ヒップなプロジェクトを続々手がける「PLY」とコラボレーションした。レセプションの壁にはユーモラスに、ボンやビンゲンといった河川で繋がるドイツの10都市の時間を刻む時計が掛かる。バーカウンターの背後には、カラフルなアジアの神々の絵が並び、カラフルなパドルがアートワークのごとくラウンジの壁を飾る。倉庫建設時を追想するミッドセンチュリーモダン、モダンクラシック、コンテンポラリー、エスニック、全てがコラージュされ、1つのスタイルにはまらない。オープンした瞬間からまるでもう何十年もそうあってきたのか、ホテリエの旅のお土産でいっぱいの家にお呼ばれしたような気分になる。
部屋の窓から悠然と流れるライン川の光景を眺めていると、時間がそれはゆったりと心地よく過ぎていく。ギリシャの寝具メーカー「ココマート」(COCO-MAT)の100%ココナッツの乾燥した外皮というナチュラル素材のベッドなど、こだわりのアイテムが部屋のインテリアにもセレクトされている。コンクリートの床には、必要最低限にラグが敷いてある。部屋ごとにデザインも異なり、高さ12mのサイロがシャワーブースというスイートもある。アメニティはバスルームのインテリアの重要なエレメント、ここでもバスルームのシンプルなデザインとホテルのコンセプトにマッチするアメニティは?とリサーチした結果、トップモデルにも愛用者が多いオーストラリアのナチュラルコスメブランド、イソップ(Aesop)のプロダクトしかないと決まったという。
シュパイヒャー7の成功が認められ、経営者はマンハイムの旧米軍基地を再開発するプロジェクトにも参加することとなった。旧テイラー兵舎が130室のホテルになる。古い米軍兵舎から、一体どんなデザインホテルが生まれるのか期待したい。
2018/01/09時点の情報です