ホテル情報
L'Hermitage Gantois, Autograph Collection
- Add
- 224 rue de Paris 59000 Lille - France
- TEL
- +33 (0) 3 20 85 30 30
- FAX
- +33 (0) 3 20 85 31 31
- reservation@gantoislille.com
- URL
- http://www.hotelhermitagegantois.com

ベルギーとの国境に近い、フランスの北の玄関都市リール。かつて中世にはフランドル領だった歴史と、伝統が今も残るノール=パ・ド・カレー地方の首府だ。そしてリール宮殿美術館(パレ・デ・ボザール)は、パリのルーヴル美術館に次ぐ、フランス第2の珠玉のヨーロッパ美術コレクションを誇る。この美術館見学にたっぷり時間をかけて楽しみたくて、一番利便性がよく、且つ魅力あるホテルを探して辿り着いたのが、この5ツ星のブティックホテル「レルミタージュ・ガントワ」だった。美術館までホテルから歩いて10分もかからない。多彩な個性を発揮し、新鮮で独創性に満ちた、インディペンデントホテルが名を連ねるマリオットホテルズの「オートグラフ・コレクション」に加盟している。
レルミタージュは、その建築空間の隅々から過去500年に渡る歴史が薫り、単にラグジュアリーホテルなだけでなく、泊まれる歴史博物館という印象だ。まさにタイムトンネルを抜けて探検する感覚で館内を見学すると、オリジナルに忠実に修復された部分と、コンテンポラリーに改装デザインされた部分との緊張感ある美しいハーモニーに感服してしまう。時の流れがマテリアルに染み込んでいる。
ホテルのフランドル様式のゴシック建築は、元々1462年に創設されたガントワという名のホスピス(施療院)であった。この施設を立ち上げたジャン・ド・ラ・カンブ(Jean de la Cambe)の愛称がガントワであった。中世ヨーロッパにおいて巡礼者が休憩宿泊できた教会、そして病気で旅を続けることができぬ者のケアもする慈善施設となり、看護にあたる聖職者の献身が、ホスピタリティの概念の基本となったわけである。ホテルの前身は、1995年まで終末期ケアのホスピスであった。そして大改装事業が敢行され、2003年にホテルとして生まれ変わる。15世紀のホスピス空間から、21世紀のホスピタリティ空間が開発された。
建築家ユベール・マース(Hubert Maes)やエリック・ティリオン(Eric Thirion)が率いるリールの設計事務所(MAES Architectes Urbanistes)が、修復・改修も含め、総合的建築デザインを手掛けた。リールを本拠地にするこの建築家集団は「アーバンランドスケープは、街の住民のニーズによって常に進化し、常に変化していく。歴史ある建物のユニークな性格をいかに保存し、その機能を現代のニーズに適応させて、都市の変化に組み込むかが課題だ」と考えている。都市の色あせた地区に新しい息吹をもたらし、ランドマークとなり得る荒廃してしまった歴史的建築に、新しい重要な役割を見いだすプロジェクトを得意とする。
そして更に新しく加わった施設が、ゴシックのフォルムを現代に解釈し直したアネックス「ザ・スパ」。青の洞窟の中で泳いでいるような神秘的プールもあり、ホテルのアーバンリゾート感を高める。錆びた金属板に、抽象的なグラフィックのような孔を開けたファサードのスカルプチャー的建築だ。
施設には、今も都市の喧噪を忘れベンチに腰掛け、本でも読みたくなる緑の中庭が複数残されている。そのなかで最も規模の大きい中庭がガラス屋根に覆われ、2層吹き抜けの広く開放感あふれるアトリウムのウィンタガーデン的バー空間に大変貌した。ホテルの心臓部、ミーティングポイントで昼はカフェ、夜はピアノバーになる。滞在時には、ハンドボール欧州選手権大会の開幕レセプションで、スポーティーに華やいでいた。
ハンドボール連盟のディナー会場にアレンジされたのは、その昔は病人ホールと呼ばれた施療院。15世紀のゴシック様式建築で、壁下層には18世紀のリール産のタイルが残る。ステンドグラスから差し込む光の色も美しい。アトリウムに隣接する礼拝堂(1666年建設)が、今は神聖な雰囲気を漂わせるサロンで、結婚式会場としても人気がある。昔、ホスピスは病気を治すというより、病人の苦しむ心を癒す施設だったから、祈りの場の礼拝堂は計り知れない意味を持っていたに違いない。
ホテルのインテリアはアン=ソフィー・モット(Anne-Sophie Motte)が担当、クラシックとコンテンポラリーが独特の感覚で調和する、上質のデザインをクリエイトした。17世紀の古いタピストリーが、ポップなアートと好対照を成す。私達のスタンダード(でも広々している)の部屋(全89室)は、淡いグレーに塗装された15世紀のオリジナル建築の天井のビームが、インテリアに深みを与え、ドアや壁がオーク材なのも特徴だ。ルイ15世スタイルの椅子と、スタルクがルイ15世スタイルを20世紀デザインに解釈したルイゴーストを対比させて使っているのもウィットに富んでいる。
私達は泊まるホテルで夕食をとることは皆無なのだが、ここでは「エスタミネ」という、パリや他のフランスの都市でも聞いたことがないお店のカテゴリーに好奇心が湧き、シーズンオフの週末だけの特別オファーで、ディナー付きパッケージを予約してみた。カジュアルでアットホームな雰囲気のフランドル風料理の店「レスタミネ・ガントワ・ブラッスリー・フラマンド」は、パリ通りとマルパール通りの角の最も左端にあたるホテル棟の1階と地下に位置する。エスタミネとは、パ・ド・カレーやピカルディ地方独特で、カフェと居酒屋とレストランが一緒になったような、昔から庶民の気さくな集いの場。元々は田舎風で、農家の用具や機材、農村の風景画などが配された内装の店だという。郷土料理を是非ということで、私のメインはムール貝、ヘニングさんは牛肉のビール煮(カルボナード・フラモンド)に決定。美味しい!しかしボリュームは前菜からして半端ではない。ワインもグラスでなく、1ボトル付き。頑張って食べきった。これだけお腹いっぱいだと朝食はパスしようかと思ったが、翌朝にブレックファストルームでもある「レストラン・ガストロミック・レルミタージュ」に行ってみると、赤とゴールドのヴォールト天井の優美な空間に魅了され、コーヒーを飲みながら夫婦でおしゃべりするうちに、あっという間に時間が過ぎていた。






























2017/09/01時点の情報です