ホテル情報
Trianon Palace Versailles, A Waldorf Astoria Hotel
- Add
- 1, boulevard de la Reine, Versailles - Paris, 78000, France
- TEL
- +33-1-30845000
- FAX
- +33-1-30845001
- reservations.trianon@waldorfastoria.com
- URL
- https://www.hilton.com/en/hotels/cdgtpwa-waldorf-astoria-versailles-trianon-palace/
ヴェルサイユ宮殿の庭園に隣接するという、究極のロケーションを誇るホテル「トリアノンパレス・ヴェルサイユ」。パリの喧噪を離れ、ヴェルサイユの緑の自然に囲まれた環境にデラックスホテルを建設したいと、パリの実業家ヴェイユ・マルティニャンが一念発起したのは、1907年のことであった。フランスの17世紀18世紀の建築を愛した建築家ルネ・セルジャン(1865-1927)の設計で、気品あふれる白亜の館が、1910年5月1日にホテルとして誕生した。セルジャンは古典的建築と、20世紀初めのモダンなコンフォートを融合するスタイルで評価され、ヴェルサイユのプチ・トリアノン宮殿にインスパイアされた、パリのニッシム・ド・カモンド美術館や、ロンドンのサヴォイやクラリッジといった由緒あるホテルの増改築も手掛けた。
創業以来、このホテルを訪れた著名人は数えきれない。その頃フランスに逃亡していたイタリアのスキャンダラスな作家ガブリエーレ・ダヌンツィオが、300人ものゲストと祝宴を開いたりもした。サラ・べルナール、マルセル・プルースト、ジャック・ブレル、ジャン・ギャバン、ジャンヌ・モローetc…。王冠を賭けた恋として、歴史に語り継がれたウィンザー公爵(元英国王エドワード8世)夫妻は、トリアノンパレスでハネムーンを過ごしたのであった。1930年代には、コンコルド広場からホテルまで直通の出迎え車が、なんと日に3度も運行していたという。
ホテルは2007年にウォルドルフ・アストリア・コレクションの欧州進出初のプロジェクトとして再オープンする。億単位の投資でロンドンを拠点に国際的に活躍する「リッチモンド・インターナショナル」(代表:フィオナ・トンプソン)が全面改装した。フォーシーズンズやザ・ランガムといった最高級ホテルのプロジェクトを次々と成功させているホスピタリティーデザイン事務所だ。クラシックとフレンチシックを調和させたインテリアは、ヨーロッパホテルデザイン賞のロビー & パブリックエリア部門賞に輝いている。
エントランスホールのアイキャッチャーは、モノクロ大理石の床の抽象的パターン上で、ビビッドに映える春の緑色のソファと、神秘的な光を放つ強烈な存在感のシャンデリア(アンドロメダ社)だ。ムラノガラスをまるで毛糸のマフラーを編み上げたようなユニークな造形システムは、カリム・ラシッドが開発し「ニット」と呼ばれている。ホールを抜けると、リズミカルなチェス盤パターンの大理石の床のそれは長い廊下に出る。ウィンターガーデンのように、片側が庭と面したエレガントなティーサロン的なラウンジへ続いているが、世界で唯一ヴェルサイユ宮殿の王立菜園のリンゴをブレンドした、その名も“マリーアントワネット”という気品漂うニナス社の紅茶も、ここで飲むとオーセンティックな味がするかもしれない。
ホテルにはいずれもゴードン・ラムゼイの監修で、2タイプのレストランがある。1つはミシュラン2つ星のグルメレストラン、洗練された華やかさの「ゴードン・ラムゼイ・オ・トリアノン」(Gordon Ramsey au Trianon)。もう1つは、夏はヴェルサイユの庭園に面して広いテラス席もあるカジュアルな雰囲気でオールデイ・ダイニングの「ラ・ヴェランダ」(La Veranda)。通常の朝食はラ・ヴェランダだが、大手の某薬品会社の貸し切りになっていて、そのおかげで歴史的な「クレマンソーの間」に案内されることとなった。第1次世界大戦後、トリアノンパレスは連合国首脳陣本部となり、当時の仏首相クレマンソーの名を冠したこのサロンで、1919年にヴェルサイユ宮殿の鏡の間で調印されることになる講和条約が草案されたのだった。
私達が滞在した時、ゴードン・ラムゼイ・オ・トリアノンでは、金曜と土曜に本当にこの料金でいいのかと余計な心配するほどのクオリティーのランチが楽しめたが、今はなくなってしまったようで残念だ。ボルディエのバターが岩石か彫刻作品のような塊から、木のへらであっという間に渦巻く円錐に成形されるのに始まる。あっという間に2時間が過ぎていた。星付きレストランなんて滅多に行くこともないので、内心はお料理の写真も撮りたかったが、撮れなかったのには理由がある。ヴェルサイユ宮殿王立歌劇場に出演中のオペラ歌手とランチの約束をしていて、テーブルに着くなり「よくスマホでレストランの食事の写真を撮る人がいるけれど、あれってホントに興ざめだよね」と言われてしまったのだ。この一言でさすがにカメラを取り出すことはできなかったのである。
またゲランのスパ施設(The Guerlain Spa)には、庭園も眺められるテラス付きで、古代の神殿風のプール(200㎡と広い)もあり、ここで泳いでいると、往路でつい数時間前には高速の渋滞に疲れきっていたことも忘れて、リゾート気分も湧いてきた。
植物が四季折々の美しさをシンフォニーで奏でるようなホテルの庭園をデザインしたのは、パリのルイ・ベネック。ベネックは最近ではル・ノートルによるヴェルサイユの庭園に、300年の時を経て21世紀に相応しい「水の劇場」を復活させる等、フランスを代表する著名な造園家である。手入れの行き届いたこの庭園を挟んで、ホテルは歴史的パレスの本館と、1990年に新築されセミナー施設も整うパビリオンの2つの建物で構成される。客室は、本館にデラックスのガーデンビュー、パークビューとスイートが100室、パビリオンにクラシック、クラシックガーデンビューの99室と、全199室。泊まった部屋は高貴と権威の象徴であったロイヤルパープルのファニチャーやテキスタイルが、ブルボン王朝を偲ばせる。2泊したうちの1泊目は本館に空きがなくて、パビリオンの方になった。ウォルドルフ・アストリアといえばヒルトン系ホテルブランドでも最高級だが、例えばミニバーが壊れていて清涼飲料がまるでお湯の温度になっている等、メンテナンスがあまりよくなかったので、予約時には本館の部屋にこだわった方が無難だろう。
トリアノンパレスへはランニングシューズを忘れずに持参したい。というのもパリ宿泊ではどんな贅沢なホテルでも経験できない醍醐味が待っているのだ。ホテルから王妃(レーヌ)大通りに出て、右のヴェルサイユ庭園への門が開かれると同時に入ると、まるでわが家の庭園のように誰も観光客がいないうちからジョギングできる。一汗流した後の朝食は美味しさも倍増だ。芝生にはもぐもぐ草を頬張る羊の群れまでいて、宮殿見学の混雑振りと比べると信じられない長閑さ。ひょっとしたらマリー・アントワネット王妃の羊が何百年も生き続けたのかと想像したくなるくらいで、ここだけフランス革命前から時間が止まっているようであった。
2017/08/01時点の情報です