ホテル情報
Das Stue
- Add
- Drakestrasse 1 10787 Berlin Germany
- TEL
- +49 30 311 722-0
- stay@das-stue.com
- URL
- http://www.das-stue.com
ベルリンの旧デンマーク大使館がホテルになるという着工ニュースに本当?と驚いたのが、もうかれこれ3年も前のことだった。当初は2010年内に竣工というプランだったのだが、建物が歴史的建築保護法下に置かれているために、予期せぬ問題が生じたり、途中でインテリアデザインの方向転換を図ったりして、プロジェクト進行が遅れに遅れてしまった。そしてやっと2012年12月にベルリン最新のデラックスブティックホテル「ダス・ストゥエ」(5つ星)がグランドオープニングを迎えた。パトリシア・ウルキオラをパブリックスペースのデザイナー & 芸術ディレクターに迎え、時間をかけたかいがあったと頷ける、期待を裏切らないデザインクオリティーを達成している。
ホテルの名前になっている“ストゥエ”とは、デンマーク語で“リビングルーム”を意味するとのこと。ホテルは、ベルリンのための「最上のドローイングルーム」をクリエートしたいという思いで実現された。ベルリンの新しい“サロン”の誕生だ。デラックスホテルでも隠れ家的でアットホームな雰囲気に包まれる。このホテルはスペイン、アンドラ、パナマで建設業にかかわる某3家族が不動産管理会社WHIMを設立して共同投資した。オーナー家族は匿名希望。ヘルムート・ニュートン、フィリップ・ハルスマン、リチャード・アヴェドン、F.C.グンドラッハなど、錚々たる写真家の作品がホテル内の壁を飾っているのだが、その数えきれない1950年代、60年代のファッション写真も、オーナー家族のプライベートコレクションである。
ホテルはベルリンの緑の心臓部の中に位置する。フロントファサード(幅60メートル)は、ティーアガルテン公園に面し、ドラーケ通りの曲がり具合に添って緩やかに弧を描く。ホテルの半円の建物は、公園とベルリン動物園に挟まれる形で、昼間なら裏庭から向こうのダチョウに挨拶したくなるくらいだ。ティーアガルテンは各国の大使館が集まっている地区で、ホテルの西側はスペイン大使館に隣接している。ウルキオラもスペイン出身、レストランはスペインのミシュラン2つ星シェフ、パコ・ペレスの指揮下にあり、スペイン尽くしの一角になった。
威厳を放つネオクラシックな石造建築は、1938年から1940年にかけて、デンマーク王国大使館として建設された。建築家はヨハン・エミール・シャウト。ベルリンの老舗百貨店KaDeWeもシャウトの設計である。正面中央に見える大きなバルコニーのある階がベル・エタージュで、嘗ては大使のレジデンスであり、現在はこのホテルのスイートである。第二次世界大戦後、西ドイツの首都ボンに大使館が移転してからも、デンマークは将来ドイツ再統一でベルリンに戻る場合を想定して、1978年まで不動産を維持し、自国の軍事使節館、領事館に利用していた。しかしドイツ再統一の夢は消えたと判断したのか、住宅公団に売却処分してしまう。空き家状態が続いた後、ドイツ郵便やドイツテレコム社が利用したりしたが、2005年には再び空き家になってしまった。そして2009年にホテルを蘇生させたいという救い主が現れたのだった。
ホテルへの改築 & 増築は、アネッテ・アクストヘルムが主宰するポツダムの建築事務所、アクストヘルム・アーキテクツが担当し、歴史ある大使館建築の厳格さと、軽やかで動きあるコンテンポラリーな空間構成とを結合させた。ガーデンサイドの新築棟には、写真をコンクリート表面に転写するフォトクリートで、フローラル文様のファサードが旧館と好対照を成している。
エントランスホールでゲストはまず、迫力あるブロンズ製のワニの頭に歓迎される。このワニだけでなく動物園のお隣さんというわけで、ホテル内では色々な動物オブジェに遭遇することになる。革のカバやサイ、カラフルなワイヤーのキリンやゴリラ、ユーモラスに動物オブジェが挨拶してくれるかのようだ。エントランスは、昔のお城なら馬車が通り抜けただろう表から裏まで、細長い通路ホールなのがユニークだ。実際、大使館時代には、裏のガレージへと自動車が通り抜けるようにできていたそうだ。吹き抜けの天井からは何百ものLEDライトのインスタレーションで、光の波が押し寄せるドラマチックな演出だ。その光が降り注ぐ中を奥へ奥へと視線が誘われる。旧館と新館を繋ぐトンネルのようなレセプションエリア、そこを抜けると、ラウンジバーと三角形のオールデイダイニング・レストラン「ザ・カジュアル」が現れる。
パブリックスペースは伝統とコンテンポラリーとが溶け合い、適度にフォーマルで、適度にカジュアルで、適度にインティメイトだ。インテリアには「贅沢だけど物質的な意味での贅沢ではなく、一種の“オーギュメンテッド・リアリティ”(拡張現実)と言える、一瞥しただけではわからないラグジュアリーさが、たくさん鏤められている」とウルキオラは言う。エントランスホールの左手にはショーキッチンのファインダイニング・レストラン「シンコ(5)」。ここに圧倒的なデザインが待っているので、食事をしなくても、オープン前にぜひ空間見学をおすすめしたい。数えきれない銅製鍋や銅製ランプ(トム・ディクソンのカッパーライト)が天井からぶら下がり暖かく光を反射する磨き上げた銅の雲のような群像が構成された。この銅鍋ライトインスタレーションの下で、30品で構成されるムニュ・デギュスタシオンを味わえる。
客室は5つのカテゴリーに分かれ、57室 & 23スイートの計80室。ベルリンの大都会のど真ん中にいるとは思えない部屋からの眺めが贅沢だ。動物園側の部屋からは、カンガルーやプルツェワルスキー馬が見えることもある。今回泊まったのは大使館建物の最上階(5F)の“エンバシールーム”。ダブルルームでもバスタブ付き、それは広いテラス付きの部屋だ。客室のインテリアは、バルセロナのデザイン事務所LVGアルキテクトゥーラが手がけている。焦げ茶のダークなフローリングの床に白、ベージュ、グレーを基調にすっきりと、クッションやマットの鮮やかな色や模様がビビッドなアクセントを添える。この部屋の動物オブジェはカラフルなキリンだった。デンマーク大使館ということでアルネ・ヤコブセンのチェアも欠かせない。パノラマウィンドーで、ティーアガルテン公園の森林への眺めがいい。冬で木の葉が茂っていないので、テラスからは戦勝記念塔の金色の勝利の女神ヴィクトリアが光って見えた。気温はマイナス7度だったが、ダウンコートの上から部屋にあった毛布にくるまって、手袋もして、スパークリングワインで乾杯した。
窓の向こうにはビルも何もないので、ガラス張りの壁のバスルームでもカーテンを開けたまま、裸で平気だ。テラスに雪が白く積もっているのを眺めながら、雪見酒ならぬ雪見風呂を楽しむこともできる。水栓金具やバスタブはノーケン社(ポルセラノーサ)のスタイリッシュなデザイン。水の温度や水量の調整にシングルレバーの動かし具合が微妙だが慣れると簡単だった。シャワーヘッドのフォルムはまるでスマートフォンみたいだ。アメニティはイギリスのギルクリスト & ソームズ(“ロンドン・コレクション”)。冬なので小さなリップバルサムも置かれていたので助かった。
私達は向かい通りに駐車していたのだが、夜の間に雪が積もってしまっていた。翌朝帰りに雪をどける作業をしていると、サービスにドアマンが走りよってくるのが見えた。ホテルのスタッフのユニホームはドアマンもベルリンで注目のオーダーメードの紳士服ファッションブランド“ダンディ・オブ・ザ・グロテスク”でクリエートされたもの。せっかくのおシャレなジャケットが雪で真っ白になってしまい、なんとなく恐縮してしまった。
ホテルの滞在で唯一の問題は部屋のテレビだった。部屋にはテレビはなく、マックのコンピューターが用意されている。私達二人は夜のテレビのニュースを見ようとしてもチャンネルに到達できない。悪戦苦闘の上に手順をマスターしたら、ニュースはもう終わっていた。私達は毎日マックのコンピューターで仕事をしているからいいけれど、高齢の御婦人などは、生まれて初めてのマックのコンピューターとリモコンに、目を白黒させてしまうのではないかな。
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2013/01/15時点の情報です