ホテル情報
CHAMBRES b' HOTES
- Add
- Kempische Kaai 68 B-3500 Hasselt
- TEL
- +32 476 23 29 41
- info@chambresbhotes.be
フランスのようにベルギーでも一般家庭が自宅のゲストルームを朝食サービス付きで提供するシャンブル・ドットに魅力的な宿がたくさんある。それは古い農家や貴族の館だったり、アールヌーヴォーのタウンハウスの一室だったり、ミッドセンチュリーモダンのロフトだったりもする。インテリアも近年はブティックホテルに負けないハイセンスな例が増え個性派旅行者には嬉しい限りだ。しかしこのハッセルトに停泊しているようなユニークな水上のデザイン民宿は、ベルギーはもとよりヨーロッパのどこを探しても見つからないだろう。
シャンブル・ドット(Chambres d'hotes)をもじって「シャンブル・ボート(Chambres b'hotes)」という。ハッセルトの街の北を流れるアルベルト運河を出入りする船の波止場、ケンピスヘ埠頭に錨を下ろしている。オーナーのヤン&ヒルデ・フランセンス=スフルペン夫妻はこのプロジェクトに取りかかる前はハッセルトの中心街で飲食店を経営していた。現役の貨物輸送船としてはもはや骨董品となった古い内陸水運用船(1964年建設)を買い上げ、退職後の2人の人生の再出発を記念して船で暮らすという夢の実現に挑む。エントランス脇にかかる真っ赤な浮き輪に船の名前が読める。「素晴らしい運命(Le Fabuleux Destin)」号だ。夫妻が大好きな映画という『アメリー・プーランの素晴らしい運命』(邦題『アメリ』)から付けられた。この憧れの船上生活を可能にしてくれた素晴らしい運命への夫妻からの感謝も込められているのだろう。
船の前半分に夫妻のマイホームがあり本当にこの船で365日暮らしているのだ。リビングダイニングだけ少し見学させてもらったが、NYかどこかのロフトのようにクールな住空間だった。長年の友人でハッセルトのモード美術館なども手掛けたベテラン建築家ヴィットリオ・シモーニ(www.simoni.be)の長い経験と美的センスが最小限のスペースを最大限に効用して小さな船のリニューアルデザインに凝集された。構想から2年かかって2007年に竣工した。改装工事前のそれはオンボロな船の写真を見ると自分がこうして経験している今の状態からはとても同じ船とは信じられない。
チェックインしてまずは靴を脱いでスリッパに履き替える。日本の旅館みたいだ。お天気が良ければ船上のテラスにヤンさんがウェルカムドリンクを用意してくれる。ハッセルト近郊にあるワイン城「GENOELS-ELDEREN」のスパークリングワインにわさび、梨のシロップ、トリュフ入り蜂蜜のトッピングでチーズのおつまみだ。ベルギーにワイナリーがあることも知らなかったので初めてのベルギー産ワイン、それも「黒真珠(ブラックパール)」という粋なネーミングのを口にするだけでも大満足だったが、その爽やかでフルーティな美味しさにもびっくりした。
船のちょうど真ん中に温水プールがある。カウンターカレントの装置もありかなりのトレーニングになった。ゲストルームは全部で4室。ドアのルームナンバーやルームキーのホルダーはモールス符号文字をデザインしてある。暖かくナチュラルなトーンで、デスクやベッドの角などの処理がうまく、狭いのに狭さを感じさせず十分に2人が動ける。引き戸を開けるとバスルームは期待以上に広いスペースが確保され、淡いクリーム色でシャワーボックスはレトロフューチャーなデザインだ。バスルームの水栓やシャワーはHANSA社がプロジェクトに賛同しスポンサーしている。銀箔を張った木のオブジェクトが部屋やラウンジの壁を飾る。このシルバーの寂びた輝きのせいかどうか、ハッセルトにいるのにこの船のベッドではヴェネツィアの運河に浮かんでいるようなのだ。
翌朝9時に朝食のためラウンジに向かう。ラウンジのデザインとパーフェクトにマッチしたテーブルセッティングにも驚いた。リッツカールトンやケンピンスキーの5つ星のホテルでもいろいろ思い出してみたがここまで徹底したこだわりの朝食でもてなしてもらった記憶はない。オランダからの他のゲストがいなければ、ブラボーと拍手喝采したいくらいだった。本当にごちそうさまでした!
2010/09/10時点の情報です