ホテル情報
Martin's Patershof
- Add
- Karmelietenstraat 4 2800 Mechelen Belgium
- TEL
- +32 (0)15 46 46 46
- FAX
- +32 (0)15 46 46 36
- mph@martinshotel.com
- URL
- http://www.martinshotels.com
ヨーロッパ大陸で19世紀に初めて鉄道が走ったのがベルギーのブリュッセルとメッヘレンの間だった。1835年5月5日、ベルギー国王レオポルド1世と英国から蒸気機関車の父ジョージ・スティーブンソンを迎えヨーロッパ大陸における汽車旅の歴史が始まった。シュッシュッポッポ、シュッシュッポッポと走り出す汽車に興奮と緊張の面持ちで乗り込みメッヘレンの駅に降り立った紳士淑女達、その歓喜の瞬間を想像しながらデイル川沿いのメッヘレン (ブリュッセルの北25キロ強、人口7万5000人) の市街に入った。16世紀にネーデルランドの首都として栄えた古都だ。その旧市街の一角にホテル「マーティンズ・パーテルスホフ」は2009年5月にオープンした。聖フランシスコ教会と修道院がラグジュアリーなブティックホテルに変容したのである。このホテルは、ベルギー各地に歴史的建築とコンテンポラリーなインテリアデザインが溶け合う個性的なホテルをクリエートしてきたマーティンズ・ホテルグループの最新プロジェクト。と同時にグループに属するホテルの中でも最も印象深い空間経験をゲストに与える。マーティンズ・ホテルのチーフデザイナー、ユジェット・マーティン=フラポンはプロジェクトを振り返りこう語る。「まず誰もいないエンプティな空間をひたすら歩き回る、そうすると光が空間のボリュームに織り込まれていくのが見え、空間のエネルギーが伝わってくる。いつのまにか古い壁が語り始め、インスピレーションが湧いてくるのです。」
ホテリエのジョン マーティン氏はベルギーの大手ビール&清涼飲料会社「ジョンマーティン」の創立者の孫。その祖父が嘗てジャンヴァル湖岸でシュヴェップスを生産していた工場が不要になり1981年現在のデラックス・スパホテル「シャトー・ド・ラック」を開発したのがホスピタリティー業界へのデビューだった。しかしながらジャンヴァル湖そのものがマーティンズ・ホテルグループの私財産というから驚かされる。
メッヘレンのパーテルスホフ (4ツ星) の外観はオリジナルに忠実に修復されたネオゴシック様式の教会建築で、本当にここが超スタイリッシュなホテルだとは中に足を踏み入れるまでちょっと信じられない。聖フランシスコ教会の建設は1867年に始まり、修道院全体は1873年に完成した。20世紀末に修道士達が去り修道院は売りに出され、先に庭園と修道院棟の一部がマンションになった。教会をホテルにする構想が芽生えたのは2008年の春のこと。部屋は全部で79室、「コージー」の23室が修道院の建物にあり、56室は「チャーミング」「グレート」「エクセプショナル」「ベスト・オブ・ホーム」のカテゴリーに分かれ教会の建物にある。
以前オランダのマーストリヒトの教会と修道院のデザインホテル「クルイスヘレン」を紹介したことがあるが、教会がパブリックスペースのみに使われていたのとは違って、ここでは教会の側廊部分や上層部分にジャグジーバスまで付いた客室が配された。実際に教会空間の中で眠れるホテルとはひょっとして世界でここだけなのではないだろうか。教会を観光見学するとステンドグラスの窓や列柱、ヴォールトの天井は高い位置にあり地上に立つ人間には手を伸ばしてもタッチできない。色鮮やかな教会のステンドグラスの薔薇窓が万華鏡のように光の絵を泊まる部屋に投影し、アーチ、ヴォールト、支柱が部屋の空間ストラクチャーを決定する。ベッドヘッドも巧みにアーチのストラクチャーに組み込まれた。部屋に限らず、客室階の廊下や回廊でも花や植物の象った柱頭のスタッコ装飾がスポットを浴び神秘的に空間に浮かび上がってくる。茄子紺、小豆色、チャコールグレーといった深いダークな壁の色もスタッコの白とコントラストをなし、ドラマチック性を増す効果にもなっている。
もはや聖歌隊の歌声は響かないけれど、教会の内陣がブレックファスト・レストランだ。祭壇画を目の前にブレックファストというのも初めての体験だ。“清貧の人”と言われ徳の一つとして“貧”を愛した聖フランシスコ、その修道院がラグジュアリーになってしまって天国で苦笑しているかもしれない。
2010/06/25時点の情報です