ホテル情報
Kameha Grand Bonn
- Add
- Joseph-Schumpeter-Allee 11 53227 Bonn
- TEL
- +49 (0)228 4334 5000
- FAX
- +49 (0)228 4334 5005
- info@kamehagrand.com
- URL
- https://www.kamehabonn.de/
ドイツ再統一後のベルリン遷都でかつての首都ボンはその影が薄くなってしまっていたが、昨年の11月15日、“デザイン界のロックスター”と称されるマルセル・ワンダースを起用したデザイングランドホテル「カメハ・グランド・ボン」がオープンして久々に脚光を浴びることとなった。ライン河の古城ホテルもいいけれど、クラシックなグランドホテルを新解釈するライン河の未来城ホテルもまた別の魅力でいっぱいだ。
ホテルはボン・ヴィジョン不動産開発会社が1億ユーロを投資したプロジェクトで、旧ボン・セメント工場跡地を再開発し、ボンの新しい街区「ボンナー・ボーゲン』を建設する事業の中核を成す。この土地で150年前にドイツ初のポルトランドセメントの国内生産が始まったのだった。ホテリエのカーステン・K・ラート氏はケンピンスキー、ロビンソンクラブを経てアラベラ・スターウッド社長に就任したこの道20年の権威である。その地位を捨てて「私の経験と私のビジョンのコンポジション」たる理想のグランドホテルを実現すべく4年前にライフスタイル・ホスピタリティー&エンターテインメント・グループを設立し、新スタートを切った。ある日突然9歳の息子に「パパともっと一緒にいたい、パパが海外出張しなくていい会社を作ろう」と言われて胸が痛んだことが一つの原因だったとか。
「カメハ」は“唯一の”“類いない”という意味を込めて、ハワイのカメハメハ王からとった名前という。透明な大きな鐘のシャンデリアが光り、まるでロシア皇帝の戴冠式を告げるかの鐘の音を視覚的に響かせる。まずは「ライフ・イズ・グランド」というホテルのモットーに出迎えられる。ガラスとアルミニウムの透明なファサードの宇宙船のような建物はボンの建築家カールハインツ・ションマーの設計で、ライン河岸に折り返す波からイメージされたという。ホテルの中心でありダイナミックなガラス屋根のイベントホール「カメハドーム」は高さ28m、1700人は収容でき空港の新しいターミナルでも不思議ないスケールの空間だ。
インテリアのスタイルは“コンテンポラリー・バロック”とも言えるだろうが、カーペットから壁紙までインテリアのエレメントにホテルのシンボルマークである「カメハ・フラワー」の文様がありとあらゆるバリエーションで登場する。デザインコンセプトについてワンダースはこう語る。「典型的なコンファレンスホテルは実用的だけど退屈極まりないもの。でもコンファレンスホテルだってエキサイティングで楽しくて、刺激的であるべきだと思う。カメハはリラクゼーションとインスピレーションの場、ビジネスしながら5つ星のリゾート感覚を味わえるはず。驚きと美しさと緊張感に満ちて、セクシーでクールな場所なんだ。ガラスのファサードの建築は蛇行するライン河とボンの街を一望でき、素晴らしい透明感を持つ。この建築のモニュメンタル性と開放性をキープしながらも暖かく親密感あるホテル空間をクリエートするという課題に挑んだ結果がカメハのデザインなんだ。」1階のパブリックエリアでは劇場の緞帳のような黒いカーテンがたくさん使われ、各々の機能空間を適度にクローズすると同時に適度にオープンにし、柔らかいカーテンのドレープのヴォリュームが華やかな文様と共に建築の硬度をダウンさせる効果を発揮してもいる。
「バロン・フィリップ・ドゥ・ロスシルド」のラウンジでは他ではボトルでしかオーダーできない最高級のワインをグラス単位で楽しめたり、敷居の高くないグランドホテルという方針が伺われる。
そしてサステイナブルで環境に優しいグリーンホテルなのもカメハの重要なコンセプトの一つだ。1000万ユーロをかけて地下に帯水層蓄熱システムを備えた地熱発電施設を完備し、冷暖房を始め消費エネルギーの70%をエコロジカルに自給でき、二酸化炭素年間排出量400トンを削減できる計算になる。このグリーンテクノロジーは希望すれば見学可能である。
赤と黒の強烈な色彩の廊下を抜けて真っ赤なドアを開け客室に入る。客室はスーペリア、プレミアム、デラックスの190室。スイートの63室にはライン河絶景ルーフテラス付きスイートもあれば、ボンに縁あるベートーヴェンの名曲をプログラムした電気自動ピアノ付きの「ベートーヴェン・スイート」とかテーブルサッカーで遊べる「フェアプレイ・スイート」とか面白いトピックをインテリアに組み込んだスイートも含まれる。部屋は夜になると大判の黒い抽象絵画を入れたような額のベッドヘッドにデザインポエジーが隠されている。照明のスイッチを入れるとお月様が黒い額の中の夜空にホワッと現れる。ライン河岸のホテルの部屋で御月見とは尋常でない風情がある。御月見しながら夢を見られるように枕のポジションをベッドの足元の方に移して寝る方向を逆にしたくなる。
デザインホテルでは、部屋のスイッチのデザインは素敵だけど、スイッチの方が使う人間より知的すぎてか、凡人が理解するまでに面倒なことがあるけれど、ここではどれがどのスイッチなのかオンかオフかもわかり易く英語と独語でスイッチ一つ一つに一言説明付記してあるのが些細なことだがとても親切に感じられた。
バスタブ上の壁一面を埋める幻想的な写真アートもゲストの記憶に必ず焼き付くだろう。赤い優雅なドレスをまとった金髪のモデルが水の精のようにふんわりと水中を浮遊する。『ニーベルングの指環』で世界を支配する力を持つという“ラインの黄金”をライン河底で守る美しい乙女達のイメージにも重なる。ロンドンを拠点に世界のファッションブランドやファッション雑誌の仕事をこなす著名なアンダーウォーター写真家ジーナ・ハロウェイの作品である。バスルームは現場仕上げでなく全てできあがって梱包されたボックスとして運ばれ設置された。静かな排水音という点でも徹底している。また黒い試験管のようなアメニティの容器にもデザインのディテールへのこだわりが察せられる。
アトリウムに面した4階の部屋だったので、実際に1階パブリックエリアの床の上を歩いている時は白黒の幾何学模様としか気がつかなかったのだが、そのタイル張りの床がカメハフラワーの文様を拡大したモザイク画だと窓から見下ろしてやっとわかった。アトリウムには高さ4mのゴールドの植木鉢に高さ9mの樹が茂る。その一つに梯子がついていて植木鉢の上でプライベートなカクテルパーティーも開けそうだ。部屋が4階なのはスパにエレベーターを使う必要がなく部屋で水着に着替えてバスローブのままで出かけられて便利だった。マイナス10度の外気でもめげずに屋上の温水プールに急いだ。他にこんな物好きはいないのかインフィニティー・プールもライン河とジーベンゲビルゲ山地の眺めも独り占め。真っ赤なプールの底の中央に黒いカメハフラワーが満開している。プールの縁に亀のように首だけ出して見下ろすと日没のライン河が黒く流れていた。
「ピュアゴールド・バー」は黒とゴールドに統一され、深夜になると雰囲気がまた格別だ。カウンター背後のゴールドの壁が“ラインの黄金”のごとく鈍く照らし出される。ライン河の水の中で揺れて光るかに微々と動く。ガラスのショーケース・テーブルで頬杖をつきながらラストオーダーのウィスキーグラスを傾ける。そういえば、ホテルのオープニング前に最初に泊まったゲストがドイツのサッカーのナショナルチームだった。対チリ親善試合を数日後に控え11月10日に張り切ってホテル入りした代表選手達はディナーの席でゴールキーパーのロベルト・エンケ投身自殺という予期せぬ悲報に愕然とする。キャプテン、ミヒャエル・バラックがロビーに佇み、肩を震わせて涙ぬぐう姿をファサードのガラス越しにキャッチした映像があの日の夜にTVのニュースで流れていた、、。ウィスキーグラスを置くガラスのテーブルの中では大小数えきれないクリスタルがキラキラと輝いている。バーボンのブラントン・ストレート・フロム・ザ・バレルのグラスが空になった夜更けには、クリスタルはサッカースタジアムで鋼鉄のハートを持つ男達が盟友のために流した大粒の涙に見えてきたのだった。
2010/02/15時点の情報です