ホテル情報
prizeotel Bremen-City
- Add
- Theodor-Heuss-Allee 12, 28215 Bremen, Germany
- TEL
- +49 (0) 421-22 22 100
- FAX
- +49 (0) 421-22 22 101
- info@prizeotel.com
- URL
- https://www.prizeotel.com/
新聞社の文化部の仕事は文化イベントが週末に開催されることが多く、週末だからお休みというわけにはいかない。本当は仕事のはずだったヘニングさんが土日続けてオフになった。突然の朗報に逆になんとなく拍子抜けしてしまったのだが、快晴が続くという天気予報に家でぐずぐずしていてもと金曜の仕事を終えそのまま北へ向けてドライブに出た。ブレーメンならちょうど夕飯時に街に着ける。ホテルは泊まるだけだから余計な贅沢は要らない。こんな時に嬉しいのが新しいトレンドになっているバジェットホテルだ。とりわけ低料金でハイデザイン、ハイコンフォートを提供するホテルコンセプト。ブレーメン中央駅裏手の「プライズオテル」はダブル素泊まりで64ユーロ(シングル59ユーロ)。この料金でデザイン界のスーパースター、カリム・ラシッドがトータルデザインしていると聞けばもう何も文句なし。朝食ビュッフェが8ユーロ50セントだが、中央駅のコーヒースタンドやベーカリーを利用すればもっと安くすむ。見本市会場や市民公園もすぐで、世界文化遺産のローランド像や市庁舎へも徒歩圏内で、ビジネスにも観光にも便利なロケーションだ。
オフィシャルなホテルの格付けシステムでは2つ星スーペリアだけど、デザイン価値は遥かに上のクラス。カリム・ラシッドが“デザイノクラシー”(デザイン+デモクラシー)の精神に則り、「エリートやお金持ちだけのためではない、みんなのためのヒューマンで楽しくて美しいハイクオリティーのデザイン」を目指して取り組んだプロジェクト。ディベロッパーのマティアス・ツィンマーマンと経営者のマルコ・ヌスバウムが超個性的なバジェットホテルの構想を練った。2007年末にドイツ鉄道からテオドーア・ホイス通りの土地を購入し2008年春に着工、今年2月にオープンした。ヌスバウム氏はデザイナーとのコラボレーションを振り返ってこう語る。「すごくインスパイアされましたね。こちらのチャレンジ精神が湧き上がる。彼の言葉は深い知識に裏付けされていて、それは数えきれない事を学ばせてもらいました。」将来はドイツ国内にチェーンを展開したいと意欲満々だ。
5階建てのビルのファサードは特に周囲の環境からはそう際立つこともない。落ち着いた色のリズミカルな幾何学模様。ホテルのロゴマークが大きくプリントされたガラスドアが開く瞬間からデジタルポップなカリムワールドが幕開けする。フワンとF1レースのサーキットをコンピューターで変形したかの不思議な黄緑色のロゴはプライズオテルの頭文字「P」の象徴だ。ロビー、朝食レストラン、カフェバーを一体化したラウンジがゲストのコミュニケーションの場となる。パーティー、イベントにも多目的に使える。
ホワイト、紅紫、桔梗色、シルバー、、色彩をセレブレーションする空間。非線形、不定形のオーガニックなフォルムのファニチャーで、レトロなSF映画かコミックの世界から抜け出たようでもある。夜にホテルに戻ってきたグループは見るからに60代半ばというおばあちゃんばかりでそれが何の違和感もなくクールなラウンジで寛いで生ビールを飲んでいた。
不思議な魅力の女の子の写真が夜はラウンジをあたかも宇宙の旅へと誘うのだが、この謎の美女が誰なのかは秘密とかで教えてもらえない。秘密と言われるとますます知りたくなってくる。この謎の瞳にはバーボンのグラスが似合いそう。朝食レストランと客室にアレンジされたシャープな白いスタッキングチェアは、カリムが自分の原点ともいえるエンジニアリングに立ち戻ってポリカーボネートのマテリアルを最小限に使って最大限の強度を獲得するにはとリサーチした結果生まれた。クリスタルカットの輝きを放つデザインだ。
客室(全127室)は16m2だが、明るい白いファニチャーの宇宙ステーションのゲストルームでもいいような空間で、鏡を効果的に配して小さめの部屋も小さく感じさせない。部屋から電話やミニバーを排除したのも料金を押さえるのに助力している。携帯電話を持たないゲストはまずいないだろう。デスクランプにはアイポッドをドッキングできる。ベッドのマットレスは最高品質で寝心地抜群だった。TVをはめ込んだ壁のミラーオブジェ、アシンメトリックなデスクとソファのエレメントやソフトなラインのベッド、デジタルパターンのカーペット、壁を飾るカリムのアートワークもホテルのための特別エディションだ。部屋とバスルームの間の壁の窓に取り付けられた横顔の切り絵のような鏡も他ではお目にかかれない。バスルームではトイレ側の壁の鏡との遊戯で、鏡の中で鏡が無限に増殖していく視覚効果が楽しめる。シャワーはレインフォレストで爽快な朝が確約されている。
翌土曜日はブレーメンの郊外へ出た。白樺の並木道を抜けて、今から1世紀前に花咲いた芸術家村ヴォルプスヴェーデに向かう。北国の浪漫の風が頬に心地よい。この日の宿は藁葺き屋根の愛らしいペンション「ハウス・トゥリパン」。チューリップをあしらった農民風の素朴な木の家具も、カリムのブーゲンビレアの花(花言葉は「情熱」)をデザインしたプラスチックのインダストリー・プロダクトも一見違うようでそのインパクトは同じ。時代精神やテクノロジー、美感は変わっても、生活と美の融合を求める理想は今のカリム・ラシッドのようなデザイナーも昔のハインリヒ・フォーゲラーとその仲間達の芸術家も変わりないのだ。
2009/09/15時点の情報です