ホテル情報
EMPIRE RIVERSIDE HOTEL
- Add
- Bernhard-Nocht-Straße 97 20359 Hamburg
- TEL
- +49 (0)40 31 11 9 - 0
- FAX
- +49 (0)40 31 11 9 - 70 601
- empire@hotel-hamburg.de
- URL
- https://www.empire-riverside.de/
ここザンクトパウリはハンブルクの波止場に近い歓楽街。私がハンブルクに住んでいた1980年代は今回紹介するエンパイア・リヴァーサイド・ホテルのようにハイエンドな社交の場が将来できるとは想像にも及ばない落ちぶれた雰囲気で、脂ぎった肌の船乗りが一夜だけの快楽に耽るといった頽廃的な小説の舞台にぴったりの街だった。
ホテルは元バヴァリア・ザンクトパウリ・ビール工場敷地の一画に新築された。100年以上も美味いビールが醸造されていたが、数年前に工場は閉鎖されその広大な跡地が今年の末までの完成を目指し“ハーフェンクローネ(港の王冠)”という新しい街区に再開発されている。ホテルからはビートルズが1960年代初頭にキャリアをスタートさせたカイザーケラーや伝説のスタークラブがあった場所もすぐで、ビートルマニアのハンブルク旅行にはうってつけである。
エンパイア・リヴァーサイド・ホテルはエクステリアもインテリアもデヴィット・チッパーフィールド・アーキテクツの設計で、去る6月27日に国際的に権威ある建築賞“RIBA(王立英国建築家協会)ヨーロピアン・アワード”を獲得した。ブロンズ(120トン)とガラス(6300m²)のファサードは垂直のラインを強調したストラクチャーが特徴だ。ファサードのマテリアルがメタルでなければならないというのは最初から確かだったが、何のメタルを使うか決断するには長い時間がかかったそうだ。周辺の古い建築物のマテリアルや街の景観にマッチする素材感と色彩のメタル、歳を重ねることでより深みの出てくるメタルを求めブロンズに辿り着いた。日が落ちてくるとエルベ河の対岸の彼方に沈む光を受けてブロンズが炎の輝きを見せる。ロケーションがホテルに与えてくれた贅沢、それは北海に向けて流れるエルベ河とハンブルク港のスペクタクルな眺め、この眺めをゲストにも満喫してもらうデザインがコンセプトの基本にあった。このプロジェクトのデザインディレクターを務めたクリストフ・フェルガーは言う。「難点のあるロケーションの場合、ホテルはインテリアをスペクタクルにしないと魅力ないが、ここでは外の景色を最大限に演出するために控えたデザインが要求された」。
ホテルのロビー、ラウンジ、バー、レストラン、コンファレンスルーム、ボールルームといったパブリックにオープンなスペースは4レベル吹き抜けのエントランスホールを囲みオープンな構造で、各スペースが視覚的に繋がれとてもオリエンテーションし易い。おとなしい空間になり過ぎるのをブレイクする要素が色で、強烈な紫色のカーペットがテラゾ(bitu Terazzo)の床に映える。ラウンジバーの「David's」はてっきり建築家の名前をつけたものと早合点していたのだが、本当はザンクトパウリの目貫き通りであるレーパ-バーンとホテルを結ぶダーヴィット通りに由縁していた。ラウンジではタイ出身の通称トゥクさんがクリエートする“ニュースタイル寿司”が人気。私の隣の席でも奥様風の4人組がアフタヌーンティーならぬアフタヌーン寿司にワイングラスを傾けていた。
究極のハンブルク夜景はホテルの最上階(20F)に位置するスカイバー「20up」が提供してくれる。このペントハウス・スイートを配さずビール1杯で誰でも利用できるバーにしてくれて有難い。あっという間にハンブルクっ子のハートを奪ってしまったそう。実はホテルに泊まったのはドイツ歌謡界の大御所ウド・ユルゲンス(ペドロ&カプリシャスの昭和時代のヒット曲、『別れの朝』原曲の作者)の音楽を盛り込んだ新作ミュージカルがホテルから歩いていける劇場でプレビューだったから。それが去年の12月1日で、ホテルは11月1日にオープンしていたが、いさんでエレベーターの20階を押して出たらなんとバーはまだ足の踏み場もない状態で工事の真最中で入ることも写真を撮ることも無理だった。(ということでスカイバーの写真はございません!)
さて客室へは真っ白い壁と天井に真っ赤な床という紅白のお目出度い廊下を歩く。カンヌ映画祭のレッドカーペットみたいだが、私には緋毛氈に見えてそうしたらなぜか茶巾寿司の味が懐かしく思い出された。全328室の85%の部屋からエルベ河と港の景色が楽しめる。客室には4カテゴリーあるがスタンダードのリヴァーサイドルーム(234室)の広さは25m²とコンパクトだが無駄がなく、スモーク風合いのオーク材の家具で色を押さえてニュートラルに仕上げ、シンプル&クリアーな飽きのこないデザイン。リゾートホテルと違い1泊か2泊だけの利用客がほとんどのホテルでは、どこに何がありどう機能するかが一目瞭然でわかるかどうかが部屋の居心地を大きく左右する。「エッセンシャルに立ち戻って、ハイテクでなくどちらかというとローテクで、デザインしてないのではと印象を与えるほどにデザインを見せない。」(クリストフ・フェルガー)
ホワイトとグレーのモザイクに統一されたバスルームではやはり開閉にスペースを必要とするトイレやシャワーの扉が不要なデザインで広々と感じられる。ただシャワーを浴びるとどんなに気をつけてもどうしてかシャワーエリアもフットマットも越えてかなりの床面にお湯が飛び散ってビチョビチョになってしまいバスタオルで床掃除しないといけなくなったのは大変だったが、、。
インテリアのオーダーメードのテキスタイル素材(Kvadrat社)も興味深い。白いカーテンは見た目にはごく薄手だが裏側が特殊なコーティングで遮光効果が100%だ。客室で一般的な椅子だと座ったり立ったりと椅子を動かす床面の余裕が必要になる。空間節約の目的も兼ねて2人で座れるベンチというアイデアが浮かんだ。昔からの農家の台所の食卓の構造にも似て落ち着く。ダークグレーのマイクロファイバーを張ってありバスルームとの境の壁が背もたれになる。港の風景がパノラマウィンドーの額縁の中で刻々と移り変わり、視線は日没のドラマに釘付けになっていた。
2008/08/20時点の情報です