ホテル情報
Mövenpick Hotel Hamburg
- Add
- Sternschanze 6 20357 Hamburg Germany
- TEL
- +49 (0)40 3344 110
- FAX
- +49 (0)40 3344 113 333
- hotel.hamburg@moevenpick.com
- URL
- https://www.movenpick.com/
- 建築
- Falk von Tettenborn
- インテリア
- Cornelia Markus-Diedenhofen
ドイツの街では思いもかけない場所に煉瓦造りの古い給水塔を発見することがある。多くは再利用されぬままに建築モニュメントとして残されその扉は閉ざされたままだ。このハンブルクのシュテルンシャンツェ公園にそびえる給水塔(高さ:57メートル)は水の代わりに旅客が眠る「メーヴェンピック・ホテル」(4ツ星)として生まれ変わった。歴史を語るインダストリー建築とコンテンポラリー・デザインがドラマチックに調和する。2007年6月に2年の工期を経てオープン。アンドレ・プットマンのインテリアになるケルンの「ホテル・イム・ヴァッサートゥルム」に続いてドイツで2番目の給水塔デザインホテルである。
今のホテルがある場所には17世紀の三十年戦争の頃からハンブルクを守るべく丘の上に星形の堡塁(=シュテルンシャンツェ)があったが、その堡塁は19世紀始めに壊され後に公園が建設される。地域の給水用に公園の丘に煉瓦の貯水タンクが建設される。都市の急成長に伴い充分な給水を確保するためハンブルクは1907年から1910年にかけて古い貯水タンクを土台にしてヴィルヘルム・シュヴァルツの設計で新しい給水塔を建設する。中には上下に二つの巨大な水槽があった。外の階段を181段昇れば展望台でもあった。ハンブルクのパノラマを実際に当時どれだけの人が楽しめたかはわからないが、、。1956年まで給水塔として使われていたが1961年にお役目を終える。売却され水族館とかシネマとか様々な再利用案が出るがうまくいかず、給水塔の過去と未来を繋ぐホテルへの改造が決まるまで40年以上も経過していた。
給水塔は文化財保護法下にあり公共の文化遺産であるから、建物のオーナーであっても好き勝手に改築することはできない。ミュンヘンのファルク・フォン・テッテンボルン建築事務所と市の文化財保護課との気が遠くなるような交渉もあった。建築ディティールが修復され、ファサードもきれいになり、オリジナルの窓のプロポーションもそのままに客室の窓となった。塔中の古いポンプ装置をデモンタージュ、直径25メートルの水槽は解体した屋根からクレーンで外へ運び、1.5メートルもの厚いコンクリート壁を切り取った部分はそのブロックを塔内で爆破しなければ運び出すことは不可能だった。塔の中軸に建設したエレベーター・シャフトがファサードを支え、これがなければ塔の煉瓦が崩れる日を待つのは確実だったそうである。
ホテルのロビーへのアプローチが凝って演出されている。ホテルの周囲も今まで通りに緑の公園として誰でも入れるように塔内へは丘の下のシュテルンシャンツェの通りから地下エスカレーターに乗る。ウルリケ・ベーマーが仕掛けた神秘的な光と深い水の中で耳を澄ませていると聞こえてきそうな音とのアート・インスタレーション。タイムトンネルのように長いエスカレーター(25メートル)での移動は束の間のあいだ自分が給水塔の中の水を追体験するかのようである。
レセプション、ロビー、ラウンジ、ビジネスセンター、バー「洞窟」、ウェルネスセンターといったパブリックスペースは塔の土台となった19世紀の貯水建築の地下2レベルに広がり、オリジナルの煉瓦のヴォールト天井が修道院の神聖ささえ感じさせる。ホテルのインテリアはロイトリンゲンのコルネリア・マークス=ディーデンホーフェンが繊細な感覚で仕上げた。ガラスのモダンな増築に会議施設やオープンキッチンでカジュアルなレストランが配された。 公園側へのテラス席は、夏は菩提樹の木陰で涼みながらスイス料理を楽しめる。パブリックトイレを覗き見すると、女性用は真っ赤なガラスプレートがボックスのドアとパーティションに使われ、男性用はブラックというヘニングさんからの情報で、スタンダールの「赤と黒」を突然読み返したくなった。
塔が8角柱なので、1Fから14Fまでのスタンダードの部屋は各フロアに16室ずつ、エレベーターシャフトを囲みショートケーキのような部屋がぐるりと並ぶ。3角形の空間が顕著になるのがバスルーム。洗面ボウル(洗面器)の下部構造の扉を開けるとゴミ入れ袋が隠れていて、床にゴミ入れ容器が置いてないだけでもどれだけバスルーム全体がすっきりするかが証明された。部屋はブラウン&ベージュのナチュラルトーンで、アイキャッチャーは自分達の部屋がどこに位置するのかも矢印でわかるが、壁に大きくプリントしてある建築の断面図だ。尖り帽子の屋根の下にジュニアスイート8室、タワースイート2室。予約が入っていたので見学はならなかったが屋根裏の17階のスイートではスタルクのバスタブからハンブルクの夜景を一望できるそう。
ホテルで一番印象に残ったのは何の特別な機能もない部屋へのエレベーターを待つ空間だった。エレベーターのスイッチを押して扉が開くのをひたすら無言で待っているだけのコーナーではない。ロビーの廊下から細い通路を右に曲がる。そのトンネルの床は薄緑に光るガラスでその下に今でも水が貯められ、その水の上の渡り橋を渡るようでもある。通路を抜けるとかつて水槽を支えていた段々構造があたかも発掘された古代の円形劇場のようだ。客席へと誘うように白いクッションが置かれている。どこからか水槽の中にいるかに静かに揺れる水音が響いてくる。気持ちいいなあ、、とエレベーターのスイッチを押すのを忘れてしばし目を閉じるのだった。
2008/07/10時点の情報です