今月から6回にわたり、リノベーションコラムの連載を開始します!
執筆は、マンションリノベーションに関する書籍も手がけている「村上建築設計室」の村上太一さんにお願いしました。
施主様と設計事務所様、両者の本音がわかる、今までにないリノベーションコラムです。
どうぞお楽しみください!
「リノベーションの依頼~基本設計編」 ~Nico-house 自然に子育てが出来る住環境を求めて~
2010年3月、私の事務所にマンションリノベーションをしたいという方から相談のメールが来ました。
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御社の作品をウェブサイトにて拝見させていただき、素敵な仕上がりに惹かれました。
築30年ほどの中古マンション(約83平米)でスケルトンリフォームを考えていますが、
買い替えのタイミングなどの関係でひと月後のローン本審査で見積もり概算が必要となります。
現在横浜市に在住で、リフォーム予定物件も同市内となります。
7月から8月あたりの完成を目処にしたいのですが、ご依頼は可能でしょうか?
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その後のメールのやり取りから、駅前の高層マンションに住むご家族(30代のご夫婦と赤ちゃん)で、予算は1300万円程度だということがわかりました。
スケルトンリフォームとは、既存の仕上げをすべて剥がして、専有部分の配管からやり直すリフォーム(リノベーション)のこと。それなりに予算と工期がかかりますが、躯体や窓などを除きほぼ新品状態になり、間取りの変更や防音性、断熱性を向上させることも出来ます。
バスルームにもこだわりがあるようで、ユニットバスではなく、好みの浴槽や水栓金具などを選び、タイルなどを使って仕上げる在来工法を採用することになりそう。
そうなると、総工費で坪単価55~60万円程度が予算の目安になります。
工期はだいたい3ヶ月程度かかりますが、なんとかできそうなので実際にお会いすることに。
お会いしてお話を伺うと、今の家は間取りや仕上げも気に入らないし、周辺に緑も少なくて子供が育つ環境ではないから、実家のある古いマンションの別棟を購入・引越ししてリノベーションしたいとのこと。
依頼先を他に検討していないのか伺ったところ、「自分の好みがはっきりしすぎていて、他に選択肢がない。出来ればお願いしたい。」といわれビックリ!
ありがたいけれど、好みがはっきりしすぎているというのがちょっと怖いかも。。。
その後、正式に設計監理契約を交わすことになり、現在のお住まいを訪問することになりました。下階には駅と直結したショッピングモールが広がる新しくて綺麗な高層マンションで、一般的には憧れの的のような住まい。
部屋は新しいけれど、たしかに床面積のわりに広がりを感じない間取りで、使われている仕上材も人工的な物。景色は良いものの、高過ぎてあまり窓もあけられないらしく、子育てをする環境ではないというのもわからなくもない。
加えて、適切な場所に収納がとれていないようで、物が溢れていました。
引越し先でもある、リノベーション予定のマンションは、駅からも離れているかなり古いマンションだけど、緑も豊富で、学校やスーパーも隣接していて、確かに子育てがしやすい環境です。なによりクライアントが育った場所で、味噌汁の冷めない距離に実家があるのが魅力。
そこで実家のご両親からもいろいろマンションについてお話を伺って、敷地周辺も少し観察しました。
いろいろプランを練るのと同時並行でクライアントの好みも知るために、お互いの都合を合わせてショールーム巡りを始めました。
まず水まわりから開始。
デザインがよく質の高い製品が揃う、乃木坂にあるセラトレーディングのショールームなどで水栓金具や洗面器に実際に触れてもらい、感触や使い勝手などを確かめて、ざっくり候補を選びます。
「輸入品は値段が高い」という先入観がある人も多いですが、国産品と比べても意外と手頃な物から、ものすごく高い物までピンキリなので、予算を考えながら選ぶことがポイント。
蛇口は直接手に触れる機会が多く、部屋の目立つ位置にくるオープンキッチンでは蛇口がインテリアの重要な要素になるので、機能のほか触った質感とデザインのよい製品を選ぶようにしています。
洗面器はカウンターと一体の物や、カウンターの上に置いたり埋め込んだりという形状、深さや底の傾斜など様々あるので、使い勝手を確認しながら選びます。クライアントさんは特にボウルの直径にこだわっていました。
バスタブは素材や形、大きさだけでは判断しづらく、実際に入ってもらわないとしっくりくる物が見つけられないので、是非入ってみることをお勧めします。クライアントさんはご自身の感性に合うものを見つけられたようです。
そして、フローリング屋さんにも行き、いろいろな材種の無垢の感覚を足の裏などで感じてもらい、要望である床暖房にも対応できそうな材種を選び、食洗機やガスコンロなども実際に触れて確かめてもらいました。
クライアントさんは好みがはっきりしているので選択が早く、意外と打合せは楽かも!
カタログ写真ではなかなかわからないので、ショールームに行って実物に触れて確かめます。
その後、事前に伺っていた要望を踏まえて、いろいろなパターンのレイアウト図(基本計画図)を作成し打合せすると同時に、リフォーム前の現場を、現在お住まいの方に見せてもらいに行きました。
建設当初から住まわれている方で、2人いるお子さんが独立し、転居されるとのこと。
通常のマンションらしく空間が間仕切り壁で仕切られていて、2方向の動線と通風も中央の廊下だけで取るようになっているので、全体的に狭くて暗く行き止りが多い感じ。
基本の間取りはご実家と似ていますが、事前にもらっていた間取り図で怪しかった間仕切り壁が、どうもコンクリートっぽい!
図面ではわからず、現場を覗いてみてビックリということがよくあるのですが、これにより部屋を区切る間仕切り壁をなくして広々としたLDKを確保するという要望の実現が難しくなってしまいました・・・
また、廊下側の個室の幅が中途半端で、まともな部屋になりづらく、洗面バスルームを窓側に移動させるという考えに至りました。
お風呂場の窓の外は外廊下なので、人が通りますが、マンションでありながら通風と採光が可能な気持ちのいいバスルームになりそうです。
その後も打合せを重ね、コンクリートっぽい間仕切り壁は撤去できないので、そこには開放的な部屋をつくり、他の部分でなるべく光や風の抜けを重視し、家事や荷物の動線、客の動線などを整理して回遊性を持たせたレイアウトに固まってきました。
これからは実際に細かい仕様を決めていく実施設計に入っていきます。
つづく