HOTEL GUIDE ホテルガイド

文化ジャーナリスト小町英恵 (早大独文卒) とハノーファーの新聞社で文化部長を務めるヘニング・クヴェレン (ハンブルク大卒、政治学修士) 。夫妻で続ける音楽とアートへの旅の途上で体験した個性派ホテルをご紹介いたします。

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5件

2017/10/02

ザ・リッツ・カールトン ウィーン(オーストリア・ウィーン)

ウィーン旧市街を囲むリングシュトラーセ(環状大通り)には、19世紀の美しい歴史的建物が次々と並ぶ。「ザ・リッツ・カールトン ヴィエナ」は、この環状大通りの東部に位置するシューベルトリングに面する。この辺りは市民公園に近く、ライフクオリティーの高さから、当時の富裕層が競って豪邸を建てた。
現在のホテルは歴史的建造物保護法下に置かれる個性的な宮殿的建築4棟が連結され、1つのホスピタリティ・コンプレックスを構成する。正面ファサードを見ると、建物によって窓の位置が異なり、ホテル館内のフロアに段差があるのも頷ける。ルネサンス、バロック、ゴシックをリバイバルさせた歴史主義の建築、その伝統と今日が融合する時を越えたラグジュアリーホテルだ。(43スイートを含む全202室)

コンプレックスは2005年まで、オーストリアの大手銀行に使われていた。改装され、5ツ星ホテルのオープニングを祝うまでの道は、容易ではなかった。(建築事務所:HOFFMANN - JANZ、Architekten FRANK & PARTNER)シャングリラホテル進出のはずが突然キャンセルとなり、1年半も幽霊屋敷だったのを思い出す。カザフスタンの投資グループが救い主となり、120ミリオンユーロで不動産を買い上げ、リッツ・カールトンを誘致できたのだった。

ホテルのロケーションは、空港からのアクセスがとても便利だ。ウィーン空港からCAT(シティエアポートトレイン)に乗り、ノンストップ16分でミッテ駅に着く。キャビンケースだけなら、そこからすぐ向かいのウィーン市立公園を散歩していき、10分もかからずホテルに着く。公園にはウィーン観光ガイドに必ず写真が載っている、ワルツの王様ヨハン・シュトラウスの黄金の像やシューベルトの像等があり、公園を抜けてすぐのベートーベン広場(ホテルの裏側)にはベートーベン記念碑と、ホテルへの道上でウィーンが誇る数々の有名な作曲家の像とご対面でき、宿に着く前に音楽の都に来たぞ!という実感を味わえたのも嬉しかった。

インテリアはペーター・ジリング&アソシエイツ・ホテルインテリアデザイン(Peter Silling & Associates Hotel Interior Design Ltd)が担当。カペラホテルグループなど多くの最高級ホテルを手掛け、以前はケルンを拠点にしていたが、現在は活動が国際的になり、香港に本社を構える。ジリングはカリフォルニアでデザインを学び、独立するまでミッソーニに6年勤務した。「グランドホテルはゲストがラグジュアリー度を五感で認識し、五感で経験できなければなりません。フォルム、マテリアル、空間コンポジションに対する好感、喜びを感性的に堪能できてこそ、居心地よく思われるのです。」と言う。

フィアカーと呼ばれる観光馬車や、スペイン式宮廷馬術学校のリピッツァナーという白馬など、ウィーン独特の馬文化。ロケーションのリングシュトラーセの環状道路の輪のフォルム。大通りの並木の木の葉。これらからインスピレーションされた「馬」「輪」「葉」の3つのテーマがインテリアにデザイン解釈された。

大通りから見て左前方、シューベルトリング5番地の建物は、1866年「貴族カジノ」として開館。(設計:ヨハン・ロマノ・リッター・フォン・リンゲ)カジノといっても今でいうカジノではなく、英国の紳士クラブをお手本にしたオーストリアの青年貴族や軍人の集いの場であった。今はホテルのメインエントランス、レセプション、ロビーラウンジ等になっている。
リング状のモダンなシャンデリアや壁を飾る馬の絵画、ホテルに入った瞬間からテーマが明らかになる。オールデイダイニングの「メラウンジ」(Melounge)、ウィーンならではのミルクコーヒーのメランジェを捩って名付けられたと察する。このロビーラウンジの壁はカラフルな木の葉の絵が飾られ、天井には3万ユーロ分の金箔で木の葉が描かれた。金を使ったのにはここにホテルの前身である銀行の金庫があったのを暗示してもいる。

右側前方のシューベルトリング7番地の古典的建物は、エルツェルト宮殿と呼ばれる。建築家アントン・エルツェルトが1865年に自邸として建設。今は通りに面して、カジュアルエレガントな最高級ビーフのレストラン「Dストリクト(DSTRIKT)・ステーキハウス」や「Dバー」(D-Bar)があり、夏はウィーンでシャニガルテンと呼ぶオープンテラスで賑わう。レストランでは12種類のステーキナイフから好きなのを選べるのがミソ。インパクトの強いマテリアルや色彩のコンビのバーは、クリエイティブなカクテルで、オーストリアの最有力グルメ雑誌のベストホテルバーに選ばれている。更に各種バンケットルームは「クリスタル」をテーマにデザインされ、エジプトから運ばれた2.5トンものクリスタルが壁を煌めかせる。

右後方ベートーベン広場2番地の建物は、1869年建築家フリードリヒ・シャハナー設計で、ボルケンシュタイン宮殿、悪よけに獅子の頭がファサードを飾る。

左後方ベートーベン広場3番地、ローマのファルネーゼ宮殿を模したファサードの建物に、ホテル内の建築的ハイライトが隠れる。修復された階段室は、上り下りを何度も繰り返してしまうほどの美しさ。かのウィーン楽友協会の天井画で有名なアウグスト・アイゼンメンガーによる天井画も印象深い。4Fホールの暖炉を飾るノアの箱船のレリーフも、国立工芸美術館でなく、ホテルにあるのが不思議なくらいの衝撃的作品である。ネオルネサンス様式のグートマン宮殿はカール・ティーツ設計で1871年に完成。オーストリア=ハンガリー帝国時代に石炭業者として富をなしたヴィルヘルム・リッター・フォン・グートマン家の館だったが、ユダヤ人のためナチスに略奪されるという悲劇が起こったのも史実である。
グリーク・キー(メアンダー雷文)の文様も床や客室の什器等にも多く登場する。フランツ=ヨゼフ皇帝が、帝国と自分の権力の象徴に好んで使った文様でもあり、ここでは古代ギリシャへの思慕を表し、無限、永遠、平和を象徴している。

ホテルは5年前にオープンして以来、世界のVIPにも愛され、ロビー・ウィリアムズもオーストリアのツアーでは、いつも家族とここに滞在。『ミッション・インポッシブル5』の撮影で、トム・クルーズも滞在している。ワールドプレミアの時は、ウィーンの街を一望できる屋上の「アトモスフィア・ルーフトップ・バー」(Atmosphere Rooftop Bar & Lounge)が貸し切りされた。この屋上テラスでは、シャンパーニュはマグナムボトルから注がれる。プレジデンシャルスイートは広さ190㎡、四季をテーマにした19世紀の天井画がリビングルームを見下ろす。階段室と同じアイゼンメンガーの名作で、まさに美術館に泊まるようである。私達には宝くじでも当たらなければ鑑賞不可能なこの天井画、こちらの動画でちょっとだけ御覧頂けます。
http://www.ritzcarlton.com/de/hotels/europe/vienna/rooms-suites/presidential-suite#fndtn-Video

オーストリア

2011/07/01

ソフィテル・ヴィエナ・シュテファンスドーム (オーストリア・ウィーン)

ウィーン最新のデラックスホテル「ソフィテル・ヴィエナ・シュテファンスドーム」は、ドナウ運河岸に高さ75mのウルトラモダンな雄姿を見せる。ジャン・ヌーヴェルが建築もインテリアもトータルデザインしたプロジェクトで、過去の歴史を今に呼吸し、未来へオリエンテーションするウィーンの街のスピリットが建築に表現された。そしてウィーンの百万ドルの夜景をプレゼントしてくれるホテルでもある。

世界最大級のフランス系ホテルグループ、アコー(Accor)社のヨーロッパにおけるフラッグシップとして構想された。ホテルが入る建物全体は通称「ヌーヴェル・タワー」と呼ばれている。オーストリアの大手保険会社ウニカ(Uniqua)が1950年代の本社ビルを撤去し、2004年の建築コンペで圧倒的支持を受けたヌーヴェルの案を実現した。このモニュメンタルなガラスの斜塔に、3Fまではインテリアブランドのショップやデザインギャラリーが集まるライフスタイルセンター「シュティールヴェルク」(Stilwerk)がフロアを占める。

このプロジェクトはウィーンの都市開発問題を考えると、その社会的な意味も軽視できない。ホテルのあるウィーン第2区レオポルトシュタット(Leopoldstadt)には、バルカン諸国からの移民やユダヤ教徒が多く暮らし、地図上ではドナウ運河を挟んで中心部の第1区に隣接するが、運河の境界線が次第にリッチな旧市街との繋がりを隔てるかに相互関係が薄れてきていた。ヌーヴェル・タワーの魅力が両地区の橋渡しとなり、住民の交流を促している。ターボア通りを挟んでハンス・ホライン設計の「メディアタワー」と、微妙に傾く二つのビルが、レオポルトシュタットへの新しい“アーバンゲート”をクリエートしてもいるのである。

「グレーはデザインのスピリットを表現してくれる色」と言うヌーヴェルだが、ホテルのインテリアは全館通して様々なニュアンスのホワイト、グレー、ブラックと徹底して無彩色と抽象的なフォルムでコンポジションされた。そのヌーヴェルの建築空間と対極にありながら、同時にパーフェクトにハーモニーしているのが計2,000㎡に及ぶピピロッティ・リスト(Pipilotti Rist)の壮大なメディアインスタレーションである。フレスコ画に代わる21世紀の天井画ともいえる。リストは「人間の内面はとてもカラフルだから」と、それは鮮やかな色彩感覚で、超現実的なビデオワークを組み込んで、絵画的な光る天井(LED)をクリエートした。エントランス、ウィンターガーデン、そして圧巻は最上18Fのパノラマレストラン&ラウンジバー「ル・ロフト(Le Loft)」だ。外と内の区別がつかなくなり、天井に柔らかく張ったテントのようなメディアアートが、透明ガラスの壁を越えて宙にまでどんどん広がり、ウィーンの街の上空を無限の色彩で覆い尽くしてしまうかの視覚魔法にかかってしまう。ファサードのガラスはガラス光天井を美しく見せるために無反射で、可能な限りの透明度と薄さが要求された。時間にあわせて光量やメディアアートの演出を操作できる。総ガラス張りで日よけがないと夏の暑さを懸念しそうだが、そこは内側と外側のガラス間に80cm幅の緩衝装置となる層があり、熱気と冷気が換気される。食事の方はフランスの名シェフ、アントワーヌ・ウェスターマンのアルザス料理をベースにしたメニューコンセプトで、席の確保もなかなか容易でないほどの人気だ。

フランスの植物学者&ランドスケープデザイナー、パトリック・ブラン(Patrick Blanc)は、防火壁を垂直庭園「グリーンウォール」に変貌させ、四季折々に2万種の植物が壁の風情も変える。

ヌーヴェルはサステイナビリティの観点でも新しい試みを実践してみせた。例えばウィンターガーデンの斜面ファサード、シュテファン大聖堂のゴシック建築屋根のパターンを新解釈して、不規則な菱形グリッドにデザインされたが、夏に外気が26℃を越えるとガラスが熱くならないよう、既存の近くの古い井戸水を霧雨にして冷却される。井戸水冷却はオーストリアで初めて応用された技術である。省エネにも優れ、夏は温水全てが屋根の太陽熱発電で賄われ、更に地熱発電装置も備える。

ヌーヴェル・タワーのファサードは、南側の旧市街に面した正面がグレー、西がブラック、北がホワイトで、東が透明なマテリアルで構成され、それに一致して客室(全182室)も南側はグレー、北側はホワイトにトータルカラーコーディネートされている。そしてスイート3室は全てがブラック。建築家は、本当は部屋の半数を真っ黒にしたかったそうだが、ホテル側の強い懸念でスイートのみに。壁や天井には部屋毎に異なるオリジナルコンセプトの繊細な鉛筆の壁画が、ウィーンの若手アーティストの手で描かれた。部屋の窓からもその部屋からだけの風景画が窓枠内に浮かぶ。“ソフトタッチ”をコンセプトに優しい手触りのインテリアだ。バスタブのデザインも建築同様にシャープで幾何学的だ。ただ短足だと、出入りにヨイショと結構な技が要求される。

部屋の白は本当にほんの少しの汚れや表面が擦られただけでも気になって仕方ないものだ。角も丸みを帯びておらず角だっているのでそれも破損しやすそう。実際に既にソファの表面には薄らと垢汚れした部分が見受けられた。この部屋ほどなぜかルームメイドや掃除スタッフの苦労が思いやられたことはなかった。チェックアウトの時に「お掃除やメンテナンスが大変ですね。」と労うと「大丈夫です。最初から計算に入れてありますので。」とのこと。余計なお世話だったかと思いながらも空港でのフライト待ち時間にもやっぱりお部屋の掃除の心配を続けていた。帰宅して、自分の住まいに白い家具がないことに、改めて安堵したのだった。

オーストリア

2008/10/01

ホテル・ラートハウス・ワイン&デザイン(オーストリア・ウィーン)

オーストリアワインとデザインのマリア-ジュ。ウィーンの「ラートハウス・ヴァイン&デザイン」はこんな美味なコンセプトのホテルだ。ダブル39室は各々がオーストリアのトップワイナリーに捧げられ、ミニバーにもワイナリー御自慢のワインボトルが並ぶ。ホテルのディレクターもワインアカデミー卒の専門家。ワインラウンジでは“今月のワイナリー”の全プロダクトが揃う。ワイナリーとのコラボレーションが成功したのも、ホテルのオーナーのフライシュハーカー夫妻が自身のグルメレストラン「プェッファーシフ(胡椒船)」で長年に渡り全国の醸造家と親交を深めることができたからだろう。レストランはザルツブルク近郊ゼルハイムの古い牧師館にあり、御主人のクラウスはミシュラン1ツ星のシェフ、ぺトラ夫人がソムリエというゴールデンコンビ。フライシュハーカー家は更にザルツブルクにロマンチックなプチホテル「ローゼンヴィラ(薔薇荘)」を手掛け、ここがホテル・プロジェクト第2弾となる。(オープニング:2004年4月30日)

市庁舎を意味する「ラートハウス」という名前の通りウィーン市庁舎に近い。ホテルに改造されたのは泡沫会社乱立時代に典型的だった1890年の住宅建築で、シェーンブルン宮殿と同じ黄色のファサードを持つ。ザルツブルクのインテリアデザイナー、マンフレード・カッツリンガーが主宰する設計事務所「m+m project」にリニューアル全てが任された。エントランスの古いタイルの床、手の込んだスタッコ装飾、オリジナルの建築エレメントが修復され再び輝きを得、ハイクオリティーの素材で創られたモダンなインテリア・エレメントと美しく対話している。

昔は馬車も入った1階の長いエントランスフロアを抜け、階段を上り大理石の柱の門の向こうにレセプションが現われた。そのトルコ産大理石のカウンターも柱も内側から柔らかな光を放ちマーブル模様を浮き上がらせるライティング・オブジェクトでもある。こちらから事前にリクエストしたわけではないのだが、チェックインで“今月のワイナリー”のヤメク醸造所(wwwweingut-jamek.at)の部屋をもらえたとわかって感謝感激してしまった。そしてワインラウンジ(朝はブレックファーストルーム)の中庭を見下ろす窓際の席でヤメクの“スマラクト”のリースリングを味わった。スマラクトとは宝石のエメラルドだが、ドナウ渓谷の急勾配なテラス状の葡萄畑にブルーの頭にエメラルドの緑色のボディをした“エメラルドとかげ”が生息していることから、ヴァッハウ地方の最高のワインに与えられる名称だ。ワインラウンジではシャンデリアやルイ14世風の椅子が帝国時代のウィーンをほのめかし、ウォルナットの木とクリーム色のレザーを組み合わせたオリジナルデザインの家具とバランスよく協和する。スタイリッシュでありながら冷たさのない人肌の温かさのインテリアだ。

ここでどうしても忘れてはいけないのが朝食ビュッフェのこと。内容があまりにバラエティに富んでいるので一体どれから始めればいいのかしばし呆然と立ち立ちすくんでしまった。ウィーンのホテルの朝食コンテストがあれば1等間違いないだろう。

部屋に荷物を置いたら一度練鉄製のデコラティブな古いエレベーター(オーチス社)で最上階まで上って、階段で1階ずつ下りて各階の部屋の扉のワイナリーのラベル見学ツアーをしてみても楽しい。番号で区別するだけのホテルの部屋のドアに個性が加わる。ヤメクの部屋は建物の光庭に面し、隣家との間の殺風景な防火壁を眺める形なのだが、これに対応したデザイナーのアイデアが驚くほど効果的。巨大なワインボトルやグラスを描いた壁画の青空ギャラリーに変貌させたのだった。ベッドの天蓋全体が照明オブジェクトなのもユニークだった。ドントディスターブのサインがワインボトルのシルエットだったり、ワイン畑の写真が壁に掛かっていたり、アメニティのボディ&ヘア・シャンプーが半透明なボトルの中にまるで赤ワインを入れたかだったり、部屋のディティールにもワインのテーマが色々な形で組み込まれている。ホテル全体で私の絶対的なお気に入りデザインはトイレの中にある。赤ワインのボトルを形取ったトイレットペーパーのシール。可愛すぎてシールを剥がすのがもったいなくて、予備に置かれたもう一つのトイレットペーパーのロールを使うことになったのだった。

オーストリア

2008/06/09

ローグナー・バート・ブルマウ(オーストリア・ウィーン)

「楽園は探してみつかるものではない。自分の創造力を駆使し自分の手で築くもの、、、」オーストリアの芸術家フリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサー (1928年-2000年)は人間と自然が調和するパラダイスを創造するために闘い続けた。オーストリアはシュタイヤーマルク地方の小さな温泉郷、人口も1500人というブルマウ村でフンデルトヴァッサーが長年夢見た「丘陵草原の国」がスパリゾートホテルの形で現実になっている。ウィーンからなら南へ130km、グラーツからなら北へ60km、スロヴェニアの国境にほど近い。アウトバーンを降りてガタガタと田舎道をひとしきり走ると、かぼちゃ畑の向こうに数えきれない色と形に構成される不思議のホテル建築が見えてくる。まさにメルヒェンの世界に迷い込んだかに。

このホテル「ローグナー・バート・ブルマウ」は1997年にオープニングした。フンデルトヴァッサーが「このパラダイスはオーストリア国への贈り物」と祝辞を述べたプロジェクトだ。ブルマウを訪れるのは初めてではない。10年前に比べて客室棟も温泉施設も増え、見学だけの団体観光バスの到着も増えた点は変わっていたが、フンデルトヴァッサー建築は10年前と変わらない魅力で迎えてくれた。

フンデルトヴァッサーは自分のことを建築家ではなく「病んだ建築を癒す医者」と定義していた。ホテルはその外観を目にする瞬間から都会人を癒してくれる。オーストリアのベスト・スパ施設にも選ばれているが、心身共に完全に日常生活から解放され知らぬ間にストレスが消えメタボリックシンドロームもおさらばという気持ちになってくる。バート・ブルマウの温泉水は2種類あり、メルヒオル温泉は47.2℃で970mの地下から出る。ヴルカニア温泉は2843mの深さから110℃で地上に出る。100万年以上も前にできた火山地帯の内海の水を採掘作業で幸運にも発見した。それは絹の衣に包まれるかの肌触りの水だ。温泉はまたホテル用の発電、暖房に応用されエコなエネルギー源でもある。

ローグナー・バート・ブルマウは中心に温泉浴場、そこから宿泊施設、飲食施設、ヘルスケアセンター等様々な機能のデザインを異にする建物がランドスケープに広がる。玉葱屋根のシュタムハウス(本館)でチェックイン。客室はこんなユニークな建物に配分されている。ブルマウ村の古い農家の煉瓦を再利用したツィーゲルハウス(煉瓦の家)、ウィーンの観光名所でもあるクンストハウスに似ているクンストハウス(芸術の家)、ファサードに天然石を使ったシュタインハウス(石の家)、地下にありながら中庭から自然光がたっぷり入るワルトホーフハウス(森の中庭を持つ家)、目の形をしたアパートのアウゲンシュリッツ(切れ長目)。屋根は緑化されその上からはパノラマ風景を楽しめる。

職人の個性を建築に浸透させる施工法もフンデルトヴァッサー建築の特徴である。現場での職人の仕事への喜びが完成した建築に魂を宿らせると考える。カラフルなセラミックのファサードや柱はもとより客室のバスルームの壁や床でも顕著なように、ディティールの仕上げは職人のクリエイティビティが限界まで引き出される。独特の表面光沢を持つセラミックはドイツのバート・エムスにあるエービンガー家の建築用セラミック専門工場でハンドメードされている。2700ものカラーバリエーションが可能だそうだ。

角のないソフトなフォルム、曲線だらけの足もとも多少不安定な環境は人間が心のバランスを取り戻すのを促してくれるかのようだった。フンデルトヴァッサーにはウィーンのクンストハウスでお会いしたことがあるが、話し振りも建築のように柔らかかった。氏は晩年のほとんどをニュージーランドで過ごされたが、一度雑誌の特集用にメッセージの執筆を御願いした時にニュージーランドからのファックスが深夜にラッタッタと入ってきた時の感激は今でも忘れられない。氏はニュージーランドの自庭のチューリップツリー(百合樹)の下に眠っておられる。

ホテルの自然環境もフンデルトヴァッサーの讃えた植物や樹木の宝庫だ。今年はフンデルトヴァッサーの生誕80周年記念に150本もの椰子の木も仲間入りした。施設内の公園を散歩しているとまだ樹齢の若い木が並ぶのが目についた。それも記念プレート付きで。ほんの数日前に植樹された日付けの木も。愛の象徴である林檎の木。に、光・若さ・感性を象徴する白樺。ホテルで結婚式を挙げたカップルが記念に自分達の木を植樹したのだった。銀婚式でもよければ植樹させてもらいたくなった。

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